ちょっと不思議に思われるかもしれませんが、子どもの歯医者を
むし歯の治療や歯並びを整えるヒトまたはトコロと思っていないでしょうか。
私たちの小児歯科医療は、健康な大人の歯の完成を目的とし、
治療はそのための手段にすぎません。歯の健康を保持し、悪いところがあれば回復させる。
子どもたちが立派なおとなになることを願うお母様やお父様の気持ちに、どこか似ていると思いませんか。
医療法人 元気が湧く 代表
本山 茂夫
そんな子を思う親の気持ちを込めてのコンセプト“歯はそだてましょう”の考え方のもとに、私たちは子ども専門の歯科医院3つと市民開放型の絵本と図鑑だけの図書館を共同で運営しています。3つの医院は育児支援として日曜日にも診療しています。絵本と図鑑の図書館は、治療を受けている子どもたちに元気を与えてくれ、絵本には、人と人との絆を作り上げる潜在力があり、私たちが診療室で子どもたちから教えられました。子どもたちの歯科医療における絵本と図鑑の可能性を形にしたものが図書館です。保育、育児支援の環境を備える子どもの歯科医院を目指しています。
『歯は育てましょう』をメイン・コンセプトとしています。植物を上手に育てるコツは、つねに話しかけることだそうです。なるほど。しかし、これは何も植物に限られたことではありませんね。人はもちろん動物や大地、およそすべての共存するものにも言えるはずです。
そして、この思いは医療法人元気が湧くでも生きています。歯は育てるもの、決して放っておいて良いものではありません。例えば、私たち歯科医師が治療を施すことができるのは生後約6ヶ月後。乳歯の頭がお口の中に顔を出す頃からです。つまり、それまではお母様を除いて誰ひとり、丈夫な歯をつくってあげられる人はいないのです。生まれつき歯の丈夫な子がいる。一方で同じ数ほどのそうでない子もいるのは、とても残念です。治療するまえに、丈夫な歯を育てる。この当たり前を、私たちの仕事と医療法人元気が湧くでは考えています。
歯科医師であるまえに、一人の親として一緒になって話しかけ、育てていく。その声に、いつかきっと子どもたちの歯は答えてくれるでしょう。むし歯の治療や予防はもちろんのこと。きれいな歯ならびを育てることも大切です。お口の健康はココロとカラダを育てます。
器用にこなすばかりが技術ではありません。子どもたちに是非知ってほしいことがあります。ものごとの性質や歴史を織ることも立派な技術であることを。そして、私たちの治療が痛くないことも。私たちは、豊富な経験と知識で痛くない麻酔注射を行なっています。そのひとつが表面麻酔。歯ぐきに薬を塗り、粘膜の1ミリ程度を麻痺させて、注射する瞬間の痛みをやわらげています。そして、もうひとつは、麻酔薬を体温とおなじ温度に温めています。注射をする際の痛みは、温度変化がひきおこす筋肉の収縮によるもので、この痛みを無くすことで痛みは感じなくなります。子どもの注意をそらすためのお話にもひと工夫をしますので、子どもたちは注射していることがわからないうちに終わってしまいます。このように私たちは、あらゆる技術で痛みを無くす努力をしています。安全でこわくない、安心の治療。やさしさ(ホスピタリティー)がある「思いやるココロ」を忘れません。
1998年に老人介護施設の看護師の方々から、縛る医療に反対した「福岡宣言」が出され、それに私たちは共感しました。当時の子どもの歯科治療では、泣き騒ぐ子や暴れる子を「早く安全に治療をする」という理由で、ネットで子どもの動きを抑え込む「抑制治療法」が日常的に行われていました。保護者の了解を得ずに抑制治療ができた時代でしたが、子どもたちに対して、いわゆる問答無用!の抑制治療に疑問を抱き、それから3年後には、私たちの診療室では抑制具を完全に廃止することができました。そこに至るまでは、泣き騒ぐ子や暴れる子を「安全に治療をする」ために新しい歯科医療技術を考案し、新しい医療器材を用いてきました。このように介護医療の縛る医療・「福岡宣言」から発せられた警告により「子どもの人権」を優先した結果、なし得た子どもの歯科医療だと私たちは考えています。
私たちは、歯科治療をとおして、子どもたちから多くのことを教えられています。
そのひとつに、子どもたちが治療にがんばってくれたことを素直に「ありがとう」と声に出して私たちのココロを伝えることです。
私たちは、ただむし歯を治す仕事をするのでなく、『ありがとう』を伝える仕事をすることを宣言しています。
私たちは、ただむし歯を直す仕事をするのではなく
『ありがとう』を伝える仕事をすることを宣言します。
『ありがとう』とは、
感謝の気持ちを言葉に置き換えるだけでなく、
心をダイレクトに伝えるもの。
すなわち、『ありがとう』を伝えることで人と人との距離が縮まり、
信頼が深くなることで心の触れ合いができると信じているからです。
心が触れ合えば、誰でも自然と笑顔が出てくると思うのです。
子どもたちの笑顔を見るために、私たちはこの「こどもの歯科」にいます。
そのためには、まず私たちが笑顔で『ありがとう』を伝えられる人にならなければいけないと考えます。
子どもたちの笑顔であふれた診察室。
それが私たちの理想です。